韓国の国宝第1号「南大門」が火災で焼失し、17日で1週間。先人の英知の結集であり、一度失ったら二度とは手に入れることができない文化財。“対岸の火事”では済まされないはずだが、日本でも「文化財防火デー」に2割の市町村が何もやっていないことが文化庁の調査で判明するなど、国内の防火体制も決して万全とはいえない。(加田智之)
≪金閣の衝撃≫
歴史的建造物の焼失といえば、日本では昭和25年7月の鹿苑寺金閣(京都市)放火事件が挙げられる。火の手は国宝だった舎利殿(金閣)を包み、室町幕府3代将軍足利義満の木像なども焼失。寺の青年僧が放火で逮捕されたことも衝撃を与えた。事件に触発された三島由紀夫が小説「金閣寺」を書き上げたことでも知られる。
文化庁によると、昭和25年の文化財保護法制定後、火災により焼失した歴史的建造物は11件15棟。一部焼失も合わせると76件84棟にのぼる。仏像などの美術品の焼失や破損も27点となるなど、貴重な文化財が日本でも多く失われている。
最近では、平成6年8月に愛知県御津町(現・豊川市)の大恩寺が全焼。国の重要文化財に指定されていた念仏堂などが全焼したが、原因は子供の花火遊びともいわれている。
≪国の補助で≫
日本では、文化財に指定された建造物は消防法に基づき火災報知機や消火器の設置が義務づけられる上、文化庁が初期消火活動に有効な屋内消火栓の設置などを指導することになる。古い木造建築物が多い文化財は火の回りも速く、こうした自前の消火設備の整備が被害を最小限に抑えるのに有効だからだ。
広大な面積を有する寺院などは防火設備の設置にも多額の資金が必要だが、国は所有者の経済状態などを考慮し最大で85%まで補助。美術品にも同様の補助制度があるなど、国民の“共有財産”として保護するための仕組みはできている。
世界遺産登録を目指している中尊寺(岩手県)では、国の補助を使って消火栓などを整備。さらに夜間は警備員を自主的に常駐させているほか、職員ら約50人で特設消防隊を設置して消火訓練を定期的にやっている。寺の担当者は「南大門の放火事件を聞き、今まで以上に気をつけて防火体制を整えなければならないと感じた」と話す。
市内に無数の文化財が点在する京都市消防局は、市内すべての消防署に文化財担当係を設置。初期消火活動の強化のため近隣住民を集めた「文化財市民レスキュー隊」を発足させるなど、「設備面と並行して人的な面での体制整備も進めている」という。
≪人的ミスも≫
防火体制の整備が進む国内だが、完璧(かんぺき)な防火体制などあり得ない。その最大の理由が、判断ミスに代表されるヒューマンエラー(人為ミス)だ。
12年に放火で本堂が全焼した京都・大原の寂光院は、せっかく設置してあった侵入者感知センサーの電源を切っていた。「動物に頻繁に反応したため」というのが理由だが、センサーが働いていれば放火犯を感知した可能性は高い。
また、1月26日の「文化財防火デー」に合わせて文化庁が今年初めて行った全国調査によると、この日前後に防火設備の点検を行った市町村は約5割。所有者への啓発活動なども含めると8割の市町村が何らかの活動をしていたが、それでも2割は何もしていないことになる。
文化施設は多くの人が自由に出入りする上、敷地も広い。放火や失火の危険に常にさらされており、文化庁も「指導を通じて所有者や国民の意識を高めていく必要がある」と話している。
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