2008年08月25日

大惨敗で見えた、日本マラソンが抱えている危機

2008年8月25日(月) スポーツナビより

■高速レースを制したワンジル

8月24日、五輪男子マラソンはワンジルが金、猛暑の高速レースに日本勢は脱落【Photo:ロイター】 北京五輪最終日の男子マラソン。秋の早朝の涼しさが残る中を、スタート直後から飛び出したサムエル・ワンジル(ケニア)が、5キロを過ぎてさらにペースアップして先頭集団を絞り込む。黒人選手たちが集団を作ってハイペースで進むのは、冬場のビッグマラソンと同じ光景。日本の尾方剛、佐藤敦之(ともに中国電力)の姿は、テレビ画面には登場しなくなり、メダルは消滅した。さらに、1984年ロサンゼルス大会から続いていた、五輪連続入賞も、ここで途絶える可能性が高くなった。

 10キロまでに、5キロのラップタイムが14分32秒に上がったトップ集団のペースは、15キロでは15分11秒に落ちたが、再び14分33秒、14分48秒と上がる。女子のレースのような安定したペースではなく、常に誰かが揺さぶりをかける激しい展開。それがハイスピードの中で行われるのは、近年の五輪のマラソンにはなかった姿だ。
 その中で、巧みに力をためていたワンジルは、37キロ手前でスパートして並走していた、2003年、05年世界選手権連覇のジャウアド・ガリブ(モロッコ)と、昨年の福岡国際マラソンで彼に次ぐ2位だったデリバ・メルガ(エチオピア)を振り切って優勝を決めた。競技場へ入って、観客席に手を振りながらゴールしたタイムは2時間06分32秒。まさに冬マラソンそのものの記録だった。

■戦う前から負けていた日本勢

男子マラソン 13位でゴールし、硬い表情の尾方剛=国家体育場【共同】 このレース、日本勢は女子同様に戦う前から負けていた。女子は優勝候補の野口みずき(シスメックス)が欠場し、土佐礼子(三井住友海上)も故障を押しての挑戦だったように、男子も大会前日には大崎悟史(NTT西日本)が故障のために欠場を決めた。さらに出場はしたが、佐藤も調子が上がり切っていなかった。日本の期待は、女子が中村友梨香(天満屋)ひとりに託されたのと同じく、男子も尾方ひとりにかけられてしまった。

「まさか14分台で行くとは思っていませんでした。最初はペースが速いとは思ったけど、少ししたら落ち着くと思っていたんです。ペースがさらに上がった時は、集団の中の中途半端な位置にいて、(先頭集団には)つけなかったんです。ライアン・ホール(米国・自己記録=2時間06分17秒)がいたから、それについていけばいいなと、ちょっと躊躇(ちゅうちょ)した部分もあったから。結局、遅い連中のペースの中に入ってしまったんです」
 こう話す尾方は、30位台から徐々に順位を上げたが、13位まで上げるのが精いっぱい。入賞を目標にしていたが、最初に流れに乗れなかったのが最後まで響いた。

 尾方と佐藤を指導する、中国電力の坂口泰監督は言う。
「6位になったビクトル・ロスリン(スイス・07年世界選手権3位)がいい相手だと思っていたから、10キロで彼についていなかったのを見て『アレッ』と思いましたね。2時間13分くらいが入賞ラインだと思っていたので、驚きました」

■スピード化の流れは、夏のマラソンにも
 男子のレース以上に、気温が低い好条件だった女子は、優勝タイムが2時間26分44秒と平凡だった。これは、世界的にもまだ女子マラソンの層が薄く、優勝候補と目される選手は数えるほどしかいないため、五輪のような勝負が懸かったレースでは思い切った作戦を取れず、けん制し合ってしまうという理由があるからだ。

 だが男子は、層の厚さが格段に違っている。優勝に絡める力を持つ、2時間6分、7分台の選手はゴロゴロいるというのが現状だ。今回優勝した日本育ちのワンジルは、昨年12月の福岡でマラソンデビューをして2時間06分39秒で優勝。その後、4月のロンドンでも2位になり、3回目のマラソンだった。
「自分は遅いペースが苦手で、いつも速いペースでレースをしてるから」
 まだ21歳のワンジルが、怖いもの知らずで飛ばした結果、冬マラソンのようなハイペースの展開に持ち込んで、競り勝つという結果になったのだ。まさに意識の持ち方ひとつだ。

「マラソンはもう特別なものではなくなってしまったんです。僕はこの北京までは大丈夫だと思っていたが、その時代が自分の想像より早く来過ぎてしまった」
 坂口はそう語る。
 近年の男子マラソンのスピード化の中で、夏のマラソンも例外のままではいないという見方は、多くの関係者が持っていた。カネボウの伊藤国光監督も、「耐久マラソンはアテネが最後。平坦なコースの北京からは、スピードマラソンになる」と力説していた。だが今回、その流れを見誤ったのは、“暑い”という事前の予想からだった。昨年の世界陸上大阪大会は、猛暑の中のレースでスローペースになった。だが北京は「大阪と同じような猛暑」という予想が外れ、スタート時は涼しいくらいになった。それに加え、平坦で記録が出やすいという条件も重なり、終盤に多少は暑くなろうが、最初から飛ばしていっても持ったのだ。

■日本マラソン界に、最も必要とされていること
「スピード強化をして、どんな条件でも2時間7〜8分台で確実に走れる力をつけなければ、五輪では戦えなくなった」
 と坂口は言う。今回のワンジルの走りで、多くの選手たちが夏マラソンを特別視しない考え方を持つようになれば、暑かろうが常にスピードマラソンになるのは必至だ。

 そんな世界と戦っていくために。現在の日本男子マラソンに必要なのは、世界から大きく水を空けられているトラック種目の5000m、1万mでの記録の差を詰めていくことだ。駅伝重視で停滞してしまっているトラック種目のレベルアップから始めなければ、1万m26分台の選手がゴロゴロいるような世界のマラソンには太刀打ちできない。「夏は特別」から「夏も普通」だとなった今は、意識改革から取り組む必要があるだろう。
 それは女子も同じだ。今でこそ本当にトップと言われる選手は少ないが、今後は5000m14分台、1万m30分ソコソコの選手が大挙してマラソンに挑戦する時代になるだろう。それに乗り遅れないためにも、渋井陽子(三井住友海上)や福士加代子(ワコール)を超えるくらいの、スピードランナーの育成をしておかなければいけない。

 男女とも欠場者がでてしまい、故障や不安を抱えた選手がいた。だがそれは、マラソンが過酷な練習を積み重ねてこなければいけない種目だからこそ、表裏一体で持ち合わせている危険性だ。その意味では誰のせいでもなく、悪いことが偶然重なってしまったということだ。
 大惨敗をしたからこそ、多くの人が日本マラソンが抱えている危機に気がつくことができたといえる。惨敗という結果を嘆くよりも先に、今後のことを考えていく。それが現在の日本マラソン界に、最も必要とされていることだ。

<了>
posted by 宝島S at 16:16| ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース(スポーツ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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